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絵画の道を志してから、長年探し求めて辿り着いた私のモチーフは、「光のある情景」だった。

それは個人的な経験がきっかけだった。田畑が広がるのどかな環境で私は生まれ育った。遠くの山から昇る朝陽と、また山に沈んでいく夕陽を眺めることができる大きな空があった。家のそばには神社があり、その森の中に入り込んで、木洩れ陽に包まれてたたずむことが多かった。何度も足を運ぶ、見慣れているはずの風景。その眺めが、ある時とても美しく、輝いて見えたことがあった。それはたいてい苦しかった時だ。精神的に追い詰められ疲弊しているとき、自然の風景は美しく輝きながら、優しく包み込んでくれた。風景は、誰もが同じように見ているのではない。その人の心を映し出し、見ているものが違っている。何の変哲もない見慣れた風景が、時に驚くほど美しく輝いて感じられるのは、私の心が、その眺めに希望という光を求めているのかもしれない-。

現在私は生活圏内にある現実の風景を取材し、何度も足を運び、心が動く場所でスケッチを重ねながら、その体験をもとにアトリエで制作している。具体的な場所を再現することが目的ではなく、ごく平凡な生活のうちに隠されている普遍性と、何気ない一瞬に内包されている永遠の輝きを表現することを目指している。

死と生、一瞬と永遠、絶望と歓喜・・・。

光と影の交錯は様々な対立概念を私に想起させる。森羅万象が明滅しながら、ひとつの大きな調和の中で、苦しくも美しいこの世界を作り上げている、そんな世界観を生み出すことを試みている。

私にとって絵を描くことは、目に映り体で感じるものを手がかりに、その奥にある世界を深く掘り起こしながら広げていくことであるとともに、今、生きているということをより強く体感できる行為なのだ。

2025年 塩賀 史子